石と菌と、幼き日の研究者
AIRAの幼少期は、まるで小さな科学者のようだった。
彼女は美術の授業が好きというより、「研究」が好きだったのだ。
豆の成長過程を細かく記録し、菌を摘出し、石を集めて削る——そんな日々を送っていた。
アートとは、色を塗ったり形を作るだけのものではなく、世界を観察し、それをどう記録し、どう表現するかの過程でもある。
「絵を描く」というより、「世界を分解し、再構築する」。AIRAの原点はそこにあるのかもしれない。
そんな彼女が美術の道に進むことになったのは、ある意味で偶然だった。
韓国の美術予備校の塾長が、芸術高校、美大、海外留学という「王道コース」を親に勧め、それに従う形で進学した。
しかし、大学では決められた枠にはまることを拒み、自由を求めた。結果として、周囲の期待とは異なる道を模索することになる。
「空っぽ」になることで見えたもの
大学を卒業後、日本に渡ったAIRAは、一時的に制作をやめることになる。2012年までの5年間、彼女は絵を描かなかった。
しかし、すべてを手放し、国も離れ、家族も離れ、「空っぽ」になったとき、彼女の手に残ったのは「絵を描くこと」だった。
何かを捨てて、何もなくなったときにこそ、自分にとって本当に必要なものが見えてくる。
そして、再び制作を始めた彼女は、TAGBOATのオンラインを通じて自分の作品を発信する。
オフラインでも活躍の場を求め、1年に10以上の展覧会に参加するという怒涛の日々を過ごした。
AIRAの作品には、一見シンプルで静かな色合いのものが多い。
しかし、その奥には社会と個人、そして無力感や疎外感が折り重なるように描かれている。
彼女の作品は、個人の内面的な経験をベースにしながら、それが社会の現象と呼応するような構造を持っている。
AIRAのアートの本質——「見えない感情」を描く
作風の特徴——静かな色彩と重なる感情
AIRAの作品は、やわらかな色彩と静かな構成が特徴的だ。しかし、その中に秘められた感情は決して穏やかとは限らない。
彼女の作品には、言葉にしにくい不安や孤独、無気力、そして時に希望が折り重なっている。
色の選び方や筆致は、あえて感情を直接的に表現せず、観る人の内側に静かに語りかけるような雰囲気を持っている。
明るい色の中に影が差し込んでいたり、柔らかい線の中にどこか鋭さが残っていたり——それらは、私たちが日常で感じる「言葉にできない感覚」に近い。
制作プロセス——「言葉」から生まれるアート
AIRAの作品は、まず「言葉」から始まる。
彼女は、頭の中で巡る言葉や文章をノートに書き留め、それを並べながら作品の構想を練る。
「最初に形を決めるのではなく、思考の流れの中で作品が変化していくのが面白いんです」
こうした思考のプロセスを経た後、スケッチを描き、下書きをし、色を重ね、時には修正を重ねながら完成させていく。
AIRAにとってアートとは、「一度手を動かしたら、それがどこへ向かうのかを見届ける行為」なのだ。
アートの役割——「見る人の思考を促す」
AIRAの作品は、単に何かを「伝える」ためのものではない。
「アートは情報を伝えるものではなく、思考を促すもの」
彼女はそう語る。ニュースやSNSがあふれる現代において、私たちは膨大な情報にさらされている。
しかし、その中で「自分はどう考えるか?」という問いを持つ時間は、意外と少ない。
AIRAの作品は、そんな私たちに「考える余白」を与えてくれる。
作品の前に立ったとき、私たちはそこで何かを読み取ろうとし、静かに自分自身と対話する。その時間こそが、AIRAの作品が生み出す大切な瞬間なのだ。
作品と向き合う時間——AIRAの世界を感じる
AIRAの作品をじっくり眺めていると、そこに込められた感情の層が少しずつ浮かび上がってくる。
やわらかい色合いの奥にある静かな強さ。
整った構図の中に潜むわずかな不安。
目に見えない感情が、ゆっくりと形になっている。
それは、まるで水面に映る空のように、時間とともに変化し、観る人それぞれの心の中で異なる意味を持ち始める。
AIRAの作品は、ただ「見る」ものではなく、「感じる」もの。そして、「考える」きっかけを与えてくれるものだ。
アートは、答えを押しつけるものではない。むしろ、私たち自身が問いを見つけ、考え始めるためのもの。
AIRAの作品に触れることで、あなたの心の中にも新たな問いが生まれるかもしれない。
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Aira Aira |
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F